執念~小沢征爾 76歳の戦い~
小沢征爾さん、もう76歳なんですね。
23.10.10の午後10時からNHKで放映された『執念~小澤征爾 76歳の戦い~』を
見終えて痺れてしまっています。あっという間の50分でした。
去年食道ガンをやられて、体力が落ちた中でのサイトウキネンオーケストラの指揮。
鬼気迫る指揮、ガンからは生還されたのですが体力が落ちてかつ老いと戦う世界的
なアーティストの自己との戦いの姿は見ていて痛かったです。
アーティストは高齢になっても命ある限り、どんどん高みに登って行ける。少なくとも
精神的に、また『芸術』の中では登り続けるのだけれど、それを邪魔する老いの障害。
演奏が少しずつ遅くなるのを感じた小澤さんが奏者に『僕のせい?』と聞き、女性の
奏者が『イエス』と言ったシーンは痺れました。小澤さん、手が動かないんだ。ゴメンね。
と言いながら悩まれておられました。背中が丸くなった小澤さんの姿。痛々しいのです
が、指揮者として動かない身体と戦いながら、よりよい作品を遺そうとする姿には打た
れました。
小澤さんのファンとしてはもう無理はしないで。。。と思うのですが、ただ挑む姿勢が
病気や老いに打ち勝つ力を産み出しているのかもしれません。おおよそ『生命』と言う
視点では勝てない戦いなのに全身全霊で戦う姿。
指揮が終わるとオケピの階段を登れない程の状態でした。
美空ひばりさんの東京ドームコンサートを見ている様な状況です。オペラは最高の
出来だったのだけれども最終公演が終わって2日後に入院されたそうです。
命を削って作品を遺すのは、アーテイストとしては本望なのかも知れませんが、ファン
とするとそこにいらっしゃるだけで嬉しいと言うのもファン心理です。
佐渡裕さんがとある番組でベルリンで小澤さんと食事をされた話しをとても嬉しそうに
お話しされておられました。切り込み隊長として武者修行をヨーロッパでされた後、小澤
さんに続く素晴らしい日本の才能がどんどんと世に出ておられます。
美空さんの『不死鳥』とか、今回の番組の『執念』と言う言葉は嫌いです。
『芸』と言うくくりで言えば、美空さんだけではなく、人間国宝の桂 米朝師匠や談志さん
が老いと懸命に闘っておられます。吉田拓郎さんもガンの後、何度かコンサートを中止
しながら今に至っております。
それぞれアーティストの力量には差があるのかも知れませんが、一流と呼ばれた方々
には舞台に対する想いは共通の様な気がします。そして舞台は怖ろしく体力を必要と
するのでしょう。『作品』を遺したいのですが、体力に不安があるから取り組めるかどう
か心の葛藤がある。その葛藤と戦う小澤征爾さん、76歳の今をしっかりと描いた番組
だったと思います。
命を削って。。。作品を遺さなくてももう充分ですが、やっぱり輝き続け、燃え続けて
『小澤征爾』を演じ続けるのが小澤さんなのかも知れません。
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