今回の放送 (24・7・12) のゲストは吉田カバンこと、株式会社吉田の社長、吉田輝幸さん。
『ポーター』や『ラゲッジレーベル』と言うブランドを展開しています。ご存知の方も多いで
すよね。
さて、吉田カバンさんを紹介しておきますと、従業員さんは157人。年間売上は129億円。
年間で157万個のカバンを販売されているそうです。
吉田カバンさんは全部国産品なのですが、自社工場は持っていません。だから157人で
これだけのボリュームを捌けるんですね。
吉田カバンは各工房で、職人さんが裁断を専門に請け負ったり、縫製をしたり・・・してい
るカバン職人の集合体なんです
現在約80の工房があります。
村上龍さんは中田英寿さんから貰った吉田カバンのバックを愛用しているそうで、吉田
カバンは『格好が良くて、実用的だ』と評されておりました。
創業は1935年、吉田鞄製作所を設立、途中で現社名、株式会社吉田に社名変更され
今に至っているのですが、創業者が創った社是は『一針入魂』
。遺言は『職人を
絶やすな』だったそうです。その遺言を守る為に、吉田カバンには①広告費は遣わない、
②値下げはしないと言う掟があります。
何をケチくさい・・・と思ってはダメですよ。
遺言の『職人を絶やさない』に繋がるのですから・・・。
吉田カバンの職人さん達は、それぞれが専門の高い技術を持った職人工房です。
難しい注文にも対応できるし、何より吉田カバンの製品を作る際には、『手を惜しまず
に、何回でも縫うでしょ・・・』と笑いながらインタビューに応えておられました。
金具を納品している工房では、通常10回でメッキが剥がれるとすると吉田さんは50回
は剥がれちゃダメだと言われます・・・。職人さん達の間で、『吉田基準』と言うモノが
出来上がっているそうです。
吉田社長さんは、決して吉田が創ったものではないとの事でした。
面白かったのは、吉田から指示された事ではないのですが折り返した際に丸みがキレ
イに見える様にひと手間、ふた手間加えているんですよ。それ位は職人に許されてい
ます、ととある縫製工房が笑っていたこと。高い技術を要求される仕事にやりがいを
感じて果敢にチャレンジしているんです。その集合体が吉田カバンのバック達なんで
すよ
ロングセーラーの品があって、その上に新製品を出して行く。絶えず職人に仕事を出す
為には、売れる品物を作らねばならないんです。
吉田さんはそう語っておりました。他の人には出来ないことが技であり、その技を護るた
めに売れる商品を世の中に出し続ける。広告費にお金をかけたり、カバンの値下げをす
る事は、職人の仕事の見返りの報酬を払えなくなるからダメなんです。
これを吉田さんは、『吉田カバンと職人の幸福な関係
』と呼んでいました
吉田カバンには修理部と言う部署があり、どれだけ古いカバンも修理に出すと治してく
れるんです。番組では吉田カバンが大好きな方が自分の誕生日に15年間使っている
カバンを修理に出す・・・と言うシーンがありました。修理個所は3つで、①カバン内の
クリアホルダーの割れ、②タグの交換、③ホックの交換・・・です。
修理部に届いたカバンは、ちゃんと印がありどこの工房が作ったのかが判るんです。
そして15年前に作られた工房にカバンが戻り、バラバラに分解され、クリアホルダーが
交換され、ついでに他の気になる部分も治されて新品みたいなカバンが出来上がりま
した。お値段は購入価格が約17000円で、修理代が7350円とのこと。これが高いか安い
かは、それぞれのご判断ですね。もちろん修理依頼を出された方は喜んでおられまし
た。
4名の吉田カバンの社員さんが、工房に派遣されて技術を習得している姿も放映されて
おりました。各工房で10年は作業しなければ技は習得できないとの事。若者もおそろしく
地味ですが・・・と笑いながらも、そこで5年働いていると言う事でした。吉田さん曰く、彼ら
は将来、工房として独立するのではなく、デザイナーと一緒に新製品を考え、職人さんが
より仕事をしやすくなる様な働きを期待している・・・との事でした。
熟練労働者が減る世の中で、毅然とそれに立ち向かう『吉田カバン』であり、それを支え
る幸福な関係の職人さんたちなのでした。
拡大をしたり、無駄に広げるのではなく、ブランドを護り、職人を護りながらお客さんから
支持される商品を出し続ける努力が、吉田カバンを支えているのでありました。
恒例の村上龍さんの編集後記です。
成功している企業は、「何を作れば売れるだろう」などとは考えない。吉田カバンは
その典型だが、自分達は何を作りたいのか、と考えるのだ。創業者の吉蔵氏は、入
院していた病室でもカバンを作り続けた。あるベテラン職人は、自分が作ったカバン
を持つ人を見かけると「どこか不都合はありませんか」と必ず聞くらしい。頑固なので
はない。カバンを作ることが生きることなのだ。単なる海外展開と言う事ではなく、創
業者の熱意と創意を維持し、ブランドを守り抜くという意味で、吉田カバンは、真に国
際的である。
吉田カバンは素敵ですね。この番組を見たらグンと売上も上がる事でしょう。日本の
消費者は、吉田カバンの『幸福な関係』的なお話しは大好きだと思います。そして
それは文化レベルが高い事の表れでもあると思う。
日本の職人さん達の技術が集約されたカバンが1万円の後半から買えるのであれば
安いと思いますし、あの吉田カバンのロゴが素敵に見えます。
吉田カバンが消費者に評価して貰える付加価値を作り、選抜された優秀な職人さん達
がひとつひとつの品物に惜しみなく技術を投入して行く。頑丈で使い勝手が良いカバン
に消費者は満足し、広告もなければ、ディスカウントもないカバンですが、納得して購入
する。高い技術力に応えるべく、職人さん達にも高額な報酬が支払われ、更なる職人の
創意工夫が加わり、吉田カバンのデザイナーもよりよいデザイン、使い勝手を求めて
新製品を作る・・・。そこにはもちろん高い技術を持つ職人をして何度もやり直しが求め
られる技術と知恵の結晶が出来る・・・。
吉田さんは、吉田カバンと職人の幸福な関係と呼んでいましたが、そこにはお客さんも
パトロンとして加わってスパイラルしているんですよ
吉田カバン愛好家はそんな
幸福の関係に加わっている・・・と感じられるだけで幸せな気がしてきます
デフレの時代と言われて久しく、何でもどんどん安くなっています。あたかも高級品が
ダメになって行く様ですが、決して高級品が売れない訳でもないんですよね。常にアッ
パーなモノは売れているし、低価格品も売れている。問題は中間層で、これが高い方
に振れたり、安い方に振れたり・・・オセロの駒がくるくるひっくり返っているんです。
さて、低価格品ばかりが中間層に支持されると、高い技術や手間暇が評価されなくな
る訳です。長いデフレの時代が続いていますから、随分といろんな分野の職人さんが
淘汰されたと思いますよ。
昔から日本は根付など手の込んだ小間物を持つのが粋とされてきました。カバンなど
は今の時代でも自己表現の場として通用しやすい一品ですね。
私個人は皮製品があまり好きでなく、タオル地が大好きで、おそらくその延長線上なの
でしょうが帆布のカバンが大好きです。お財布も帆布を長い間使っていました。
デザイン性だけでカバンは選んでいましたが、今日のカンブリア宮殿で吉田カバンを
見てしまうと、あれだけの日本の職人さん達が惜しげもなく技術を詰め込んだカバン
ならば、常に持ち歩いてもいいかな・・・と思いました。ポータのマークや×マークの
ラゲッジレーベルはこれから嫌でも私の眼に飛び込んで来る事でしょう 
職人さんを大切にする思想が大好きですし、デフレに棹差し、付加価値を常に世に問う
姿勢も大好きです。
吉田カバンが有名なのは老若男女の消費者が正当に評価しているからこそなのですが
広告費をかけないで、言わば口コミで広がった信用が私の耳にも飛び込んで来ていた
訳なんですね。日本人もイタリアのブランドバッグだけでなかった・・・と言うのは嬉しい
なぁ~
デフレは職人受難の時代です。
『家」などもどんどん価格の安さを前面に出した広告戦略が取られています。
安い事は良い事だ・・・とばかりにテレビや折り込みチラシを見かけます。
こうなってしまったのは、一部の不良業者が暴利を貪っていたから工務店が出す価格
に信頼感が無くなってしまったのが原因です。素材や構造の手を抜けば価格はある程
度安くなります。安い家と言うのは、『それなりの家』(手抜きの家)と言う事でもあるんで
す。もちろん評価は消費者が決める事ですから、どこに重きを置くのかは消費者にイニ
シアチブがあります。
世の風潮は、『価格が安ければ、多少のズルはあっても騙されていないだろう・・・』と
言うなんとも変な安心感。それを『安売りの家』の広告が後押ししているんですね。
『より良いモノをより安く』と言う競争の原理は大切だと思いますが、実は適正な利幅を
載せた価格の家を発注し、職人も技を提供し、これから何十年のメンテナンスも依頼
出来る関係が良い関係だと思います。(工務店が切磋琢磨してより安く、良い家を提供
しようとする職人魂が前提ですが)
建てたら建てっ放し・・・と言うのが安売りメーカーさんで、不具合があっても安かったの
だから・・・と消費者も諦めがち。
これでは実は業界としてみれば、自分で自分の首を絞めていると言うか、タコが自分の
足を食べている・・・と言うか。
その中で、技術を持った職人がどんどん淘汰されている現状は実に嘆かわしいと思い
ます。
車や衣類、カバンなどは一生のうちでなんどか購入する機会がありますから、まだ良し
悪しの判断基準は自分なりのモノが出来ますが、家などは一生に1度か2度の事です
からねぇ~。
オセロが黒ばっかり(つまりは安売り)になりがちな昨今ですが、早く、白が逆転してバン
バン黒をひっくり返す様な世の中にならなきゃダメです。
個人のお財布の厚み・・・も大切な事ですが、何より、消費者が自分の価値判断を磨い
て、良いモノを正当に評価出来る様になる事が大切だと思います。
日本のお家芸の家電や自動車だって、どんどん安価になって来て、内外装が簡略化さ
れているので消費者の『感動』が無くなり、それも若者離れを加速させていると思います。
龍さんの編集後記に有った『何が売れるだろうと考えず、自分が作りたいものを作る』
と言うのは下手をすると、最近良く聞く『ガラパゴス化』を呼び込んでしまいます。高い職
人の技量も消費者に支持され、価格に転嫁されて初めて活きるモノなのです。
日本の産業界全体がしっかりと考えなきゃ行けない問題がここにありますね。
最近老舗のうなぎ屋さんがどんどん閉店していると聞きました。うなぎの不漁で価格が
高騰。それに技術料が載っかると大変な価格になってしまい、このデフレの時代では商
売にならないらしい。
明日のランチで5千円のうな重を食べますか・・・と言われると困ってしまいますけどね。
私の消費者心理も早く白にひっくり返さなきゃダメなんだなぁ~ 
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